楽しいことを見つけよう
働くということは、とても辛くて苦しいものに違いない。これが学生時代の仕事に対するイメージでした。
だから新入社員研修を終えて配属先に出社するとき、僕は緊張していました。
先輩方と初めての顔合わせが控えていたからだけではありません。自分の想像に、おびえていたんです。
自分たちがこれから行っていく業務は、医療用の機器や消耗品を病院に販売する、いわば間接的に命にたずさわる仕事です。
医療に関する知識については、同期と一緒に勉強したけれど、学びと実践は違います。
実際に病院を担当したら、何が起きるかわからない。
新人の自分が一人前の営業社員として働けるのだろうか、と不安に思っていました。
もしかすると上司は僕の戸惑いをわかってくれていたのかもしれません。
最初に指示された課題は、
「(勤務時間中に)何でもいいから、楽しいことを見つけるように」
というものだったんです。
「今日のお昼は美味しかった」「配達した商品の納品が早く終わった」「新しい医院を訪問した」「自分に、先生が笑顔で挨拶をしてくださった」など、内容は何でもありです。
——営業目標を達成するためには、どうすればいいのかを考えるのではなくて、自分がまず楽しいと感じることを見つければいいのか——
肩に入っていた余分な力が、ふっと抜けたように思えました。
担当する病院をまわりながら「楽しい」に、意識を向ける毎日が始まりました。
1つずつ 「楽しい」を数えていると、嫌な出来事やトラブルが起きても、頭がそれでいっぱいにはならない。僕はこの事実を見つけました。
そして日数が経つにつれて、仕事で「楽しい」と感じる回数が増えていったんです。
気がつくと、就職前に持っていたネガティブな仕事観は、心の中から消え去っていました。
僕は現在、すごく仕事を楽しんでいます。
病院の皆さんには、すっかり顔と名前を覚えてもらえて、先生からは「こんなものがほしい」と、僕へ真っ先に依頼が来るようにもなりました。
自分は担当病院の方々に、頼りにされる存在になってきたと感じています。
入社間もない自分に、「楽しい」にフォーカスする仕事の姿勢を教えてくれた上司。
会社にこんな上司がいて一緒に働けることを、僕は感謝しています。
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「楽しい」だけの仕事は、実際はないのかもしれません。
営業職には、プレッシャーがつきものです。同業他社とは決められた医療機器購入予算をめぐり、病院内でいつも陣取りをしているような状況です。自社シェアを増やし、目標達成に向けて数字を追うことだけを目的としていたら、厳しい面しか目に入らないかもしれない。それでも自分の心の持ちようで、仕事は楽しくできると僕は考えています。
目の前の与えられている課題や現状から逃げずに向き合い、日々の営業活動を通して得られる、周りの人たちとの触れ合いを大事にする。その姿勢が、楽しさにつながるのではないか、と思うんです。
狙っていた大型機器の契約がとれた、自分の担当病院へ他社の攻勢を未然に防げた、といった派手な出来事があった日には嬉しいし、大きな達成感を得られます。
でも特別ではない、トラブルや予定外の状況に見舞われる普通の日にも、やりがいや充実感を覚える日は隠れています。仕事を継続していると、それが見えてくるんです。
パソコンの壁紙について触れたことから、先生と共通の趣味の話で会話が盛り上がり、お互いの心の距離が縮まった診療時間の合間のひととき。
準備を任されていたセミナーが終わり「ありがとう」と声をかけられ、喜んでもらえて良かったと、仕事が無事に終わった解放感に包まれる午後。
お客さまとのコミュニケーションを重ねるなかで、「良かったな」「何だかすごく楽しい1日だった」と感じるきっかけとなる出来事が、繰り返しやってくるようになるんです。
「楽しい」仕事がしたかったら、まず自分からそれを探して、お客さまや周りへと循環させる。自分が動いて楽しさを発生させるつもりで、僕は毎日、仕事をしています。
予告 『グラフや花が無い会社』
公開までもう少しです!