甦った眼底カメラ
「このままでは、終われない」
僕は、ぼんやりとしか眼底の見えない写真を確認しながら、なぜ画像が綺麗に写らなくなったのか、原因を追究しようと決心していました。
担当している眼科の看護師さんから、
「患者さまの目の画像が、どれも曇って写真に写っている、どうしたらいいか」と、問い合わせがありました。
眼科では目に重要な疾患が潜んでいないかを調べるために、眼球の奥を撮影する「眼底カメラ」を検査で使います。カメラが不調だと聞き、すぐに僕は病院へ向かいました。
たしかに、ぼんやりとしか写っていない。
ぱっと見ただけでは機械の悪い箇所が特定できなかったので、まずは製造元へ、電話で問い合わせをすることにしました。
受話器越しに、担当者の指示に従い作業をします。でも特に変化がありません。
それなら直接現物を見にきてもらおうと、メーカーさんに修理を依頼しました。
数日後に訪れた修理担当者さんは「フラッシュが弱いから、はっきりと写らないんでしょう」と、光の弱さを指摘しました。
古い電球を交換すれば直るはずだと言われ、病院には、新たに電球を購入してもらいます。でも新しいものと交換をしたのに、
撮った写真に変化はありませんでした。
「言う通りにしたのに、直らないのはどうして」と先生が尋ねられたのですが、
「何しろ古い機種ですし……これ以上は、やりようがありません」
と派遣された担当者さんは、修理完了とみなして帰っていきました。
故障箇所はうやむやで、問題は残されたままです。
「本当に、機械の老朽化が問題なのかな」
双方のやり取りを聞きながら、僕は疑問を感じていました。
あやふやな結論に、納得ができなかったんです。
僕らは技術者ではないので、カメラの分解はできません。
でも触って確かめるまでなら、僕にでも可能です。
自分のいじれる範囲で機械をチェックして、もう一度見落としていたところがないかを調べてみることにしました。
するとカメラのレンズには変化は見つからなかったけれど、カメラ本体に付属する、撮影した画像を記憶するCCDカメラに、異常を発見したんです。
こちらのレンズは経年劣化のため、曇って光を通さなくなっていました。
どうりで本体だけを調べても、直らなかったはずです。
不具合な箇所が特定できたので、次はどう対処するかです。
「同じ型式のレンズをメーカーさんから借りて、CCDカメラにつけ替えてみてはどうだろう」と僕は思いつきました。
技術社員の指導のもと、不透明なレンズを、光を通す綺麗な代替レンズと交換してみます。
すると、画像の鮮明度は、格段にあがりました。
くっきりと目の内部を捉えた写真を見て、病院の皆さんの顔が、ぱっと明るくなりました。レンズを交換すれば、眼底カメラは復活する。
それが実証されました。
眼底カメラが元通り使用できるようになるのかは、やってみないとわかりませんでした。
でも僕は少なくとも、「こういう原因で写りが悪いのです」と理由を話せるようにはしておきたかったんです。
「使用年数が経っているからと終わらせずに、よく原因を見つけてくれたね」
先生や看護師さんたちから褒めていただき、あきらめなくて良かったと思いました。
後日、院長先生から、わざわざ手書きの感謝状が会社へ届いたときには、びっくりしたけれど嬉しかったですね。