第1章 仕事とつながる

甦った眼底カメラ

「このままでは、終われない」

僕は、ぼんやりとしか眼底の見えない写真を確認しながら、なぜ画像が綺麗に写らなくなったのか、原因を追究しようと決心していました。

担当している眼科の看護師さんから、

「患者さまの目の画像が、どれも曇って写真に写っている、どうしたらいいか」と、問い合わせがありました。

眼科では目に重要な疾患が潜んでいないかを調べるために、眼球の奥を撮影する「眼底カメラ」を検査で使います。カメラが不調だと聞き、すぐに僕は病院へ向かいました。

たしかに、ぼんやりとしか写っていない。

ぱっと見ただけでは機械の悪い箇所が特定できなかったので、まずは製造元へ、電話で問い合わせをすることにしました。

受話器越しに、担当者の指示に従い作業をします。でも特に変化がありません。

それなら直接現物を見にきてもらおうと、メーカーさんに修理を依頼しました。

数日後に訪れた修理担当者さんは「フラッシュが弱いから、はっきりと写らないんでしょう」と、光の弱さを指摘しました。

古い電球を交換すれば直るはずだと言われ、病院には、新たに電球を購入してもらいます。でも新しいものと交換をしたのに、

撮った写真に変化はありませんでした。

「言う通りにしたのに、直らないのはどうして」と先生が尋ねられたのですが、

「何しろ古い機種ですし……これ以上は、やりようがありません」

と派遣された担当者さんは、修理完了とみなして帰っていきました。

故障箇所はうやむやで、問題は残されたままです。

「本当に、機械の老朽化が問題なのかな」

双方のやり取りを聞きながら、僕は疑問を感じていました。

あやふやな結論に、納得ができなかったんです。

僕らは技術者ではないので、カメラの分解はできません。

でも触って確かめるまでなら、僕にでも可能です。

自分のいじれる範囲で機械をチェックして、もう一度見落としていたところがないかを調べてみることにしました。

するとカメラのレンズには変化は見つからなかったけれど、カメラ本体に付属する、撮影した画像を記憶するCCDカメラに、異常を発見したんです。

こちらのレンズは経年劣化のため、曇って光を通さなくなっていました。

どうりで本体だけを調べても、直らなかったはずです。

不具合な箇所が特定できたので、次はどう対処するかです。

「同じ型式のレンズをメーカーさんから借りて、CCDカメラにつけ替えてみてはどうだろう」と僕は思いつきました。

技術社員の指導のもと、不透明なレンズを、光を通す綺麗な代替レンズと交換してみます。

すると、画像の鮮明度は、格段にあがりました。

くっきりと目の内部を捉えた写真を見て、病院の皆さんの顔が、ぱっと明るくなりました。レンズを交換すれば、眼底カメラは復活する。

それが実証されました。

 眼底カメラが元通り使用できるようになるのかは、やってみないとわかりませんでした。

でも僕は少なくとも、「こういう原因で写りが悪いのです」と理由を話せるようにはしておきたかったんです。

「使用年数が経っているからと終わらせずに、よく原因を見つけてくれたね」

先生や看護師さんたちから褒めていただき、あきらめなくて良かったと思いました。

後日、院長先生から、わざわざ手書きの感謝状が会社へ届いたときには、びっくりしたけれど嬉しかったですね。

商品を届けるための長距離リレー

「おっ、来てくれている」会社名の書かれた社有車と、顔を知っているメーカー担当者さんの姿が見えます。ここは北陸自動車道と名神高速道路をつなぐ、米原ジャンクション。

私はお辞儀をしながら、製品を持って来てくれた彼へ近づいていきました。

「今日この器具を使いたいんだけれど、準備してくれるかい」担当する整形外科の先生から、予定外の依頼がありました。

手を骨折した患者さまのために用意してほしいと指定された器具は、体内に埋め込む特殊なスクリューでした。他の病院や、金沢市にある我が社の物流センターには、在庫を置いてないものばかりです。

私は、必要と言われた他の手術道具一式を頭のなかで思い浮かべ、

「急な連絡なので、全部を揃えるのは難しいです。でもできるだけご要望に応えたいと思いますが、それでもよろしいですか」

と先生の了解を取りつけて、電話を切りました。

現在の時間は午前10時。

どうしても手術には外せないスクリューは、大阪にあるメーカーさんの製品です。

直接協力を仰ぐしかないと決心した私は、担当者に連絡を取りました。

「○○(製品名)を使いたいのですが、手配をお願いできるでしょうか。期日は本日です」

「はっ、今日ですか!」

受話器から伝わる、担当者の声の調子が変わります。

(当日にいきなりお願いされても、そりゃびっくりするよな)と思いながら、私は交渉を始めました。

最初は驚いていたメーカー担当者さんも、同じ業界で仕事をする仲間です。

こちらの事情を汲んで、お互いの中間地点、高速道路の米原ジャンクションまで運んであげましょう、と協力を申し出てくれたのです。

段取りはつきました。あとは時間との闘いです。

 会社を出て、北陸自動車道を西へとひた走ります。

米原ジャンクションが、見えてきました。

馴染みのあるメーカー名の車を目がけて歩いていくと、先方が車のドアを開けるのが見えました。

お互いに挨拶もそこそこに、受け渡しがスタートします。

メーカー社員さんは私の手元に、素早く製品を渡してくれました。

何度も頭を下げながら、急いで車へ戻ります。時刻は14時を過ぎたところです。

 再び高速道路を飛ばして、今度は病院を目指します。

市内に入り、手術道具一式を持参したのが17時頃でした。

これで手術は、予定通りに行えます。

「準備が整いましたよ」と先生に一声かけて、私は病院の建物を後にしました。

「すぐ持ってきて」、「すぐに来てほしい」

私たちの仕事には「すぐ」がつきものです。

メーカーさんや社内の人間と連携して、お客さまの「どうしても」の依頼に応えることは、特別ではない日常業務のひとつです。

お届けする中身は違っても、「商品を届けるリレー」は、今日もどこかで行われています。

どうすればできるだろう

僕が先生たちから「ド○○○ん(ねこ型ロボット、アニメの主人公の名前)」と呼ばれていると、最初に教えてくれたのは、メーカー営業社員さんでした。

皆さんからの依頼を受けているうちに、「あの人に任せれば、何でも解決する」と病院内で評判になっていたようです。

 あるとき若手の先生が、「次回は、どんな準備をしておいたらいいですか」とベテランの先生に尋ねられているところに、たまたま僕も居合わせました。

すると年配の先生は僕の方を向いて「“ド○○○ん”に言っといて」と、おっしゃったんです。

(聞いていた話は、本当だったんだ)

実際に、自分がアニメのキャラクターの名前で呼ばれている場面に遭遇して驚きましたが、僕を頼りにしてくださっている気持ちが伝わり、嬉しかったですね。

お客さまは僕たちに、いろんな相談を持ちかけてこられます。

東北地方の大学を卒業された先生が、出身医局の東北の病院で使っているものと同じ製品が欲しい、とおっしゃったことがありました。北陸から遠く離れた東北の病院関係者には知りあいはおらず、面識もありません。

どうしようかと戸惑いましたが、僕たちはメーカーさんや、つてをたどって情報を集め、何とか用意しました。

「学会で見たDVDに映っていた、あれを探してほしい」と頼まれたときには、まず画像に出ていた製品を特定するところから始めました。

意地でも見つけてみせる! という気持ちで、先生の指定されたものを探し出しましたね。

「どうすればできるだろう」いつもこう考えて、仕事に取り組んでいます。

もちろん不可能と判断したらお断りはします。

でも、まずは「やってみる」方向で、物事を進める。その姿勢が、きっとはたからは、あらゆる状況に対応しているかのように見えるのだと思います。

日頃の取り組みの成果は、あだ名というカタチに変わって、僕のもとへ届きました。

病院内では、この呼び名が広まっています。

最初は戸惑いましたが、嫌な気分はしないですね。

♦  ♦  ♦

できないと言う大切さ。

お客さまに頼りにされると、やっぱり嬉しくて。

「任せてください!」と何とかして期待に応えられるように奮闘してしまいます。

でも「これは無理だろう」と、話をしている最中に、わかる場合があるんです。そんなときには、僕はどんなに話しづらくても「できません」と、はっきりお断りをしています。

ただし、いったんお客さまのおっしゃる話を全部聞いて、その内容を受けとめてから、「無理です」と言うようにしています。用件は引き受けられなくても、お客さまの気持ちは受け入れたい。その上で、何故できないのかの説明を、欠かさないように気をつけています。

 お客さまに、嘘はつかない。

手に負えない依頼を受けるのは、嘘をつくことと、結果的には同じです。

病院のスタッフさんやメーカー営業社員さんの前で、自分が良い顔をしたくて無理をしたら、しわ寄せは皆さんだけで終わらず、その先にいる患者さまへいってしまうかもしれません。

お客さまや患者さまへ迷惑をかけては、本末転倒です。

だから正直に、「できないものは、できない」と話すようにしています。

嘘をつかず、そして嘘のない自分でいる。それを僕は意識しています。

『想像力を駆使せよ』

相手の立場にたって考える能力を絶えず問われるのが、手術の打ち合わせです。

勘違いされることがあるのですが、「外科○○手術セット」のような、これを持っていけば全ての手術に対応できるというような製品一式は、存在しません。

手術で使うメス・はさみなどは、一回ごとに、私たちが揃えます。

一回の手術に合わせた一組のセットは、実は特別仕様なのです。

手術の基本方式は、病名を問わず、ある程度は決まっています。しかし、そこに執刀する医師の特徴が加わると、たとえ同じ病名の手術をする場合でも、やり方が変わり、使用する製品には違いが出てきます。

私たちは先生一人ひとりが、どんな性格をされていて、手術方法・器具の好みはどのようなものなのかを、営業社員各自で把握しています。この点の理解ができていないと、仕事にはならないでしょうね。

「今度、胆管(たんかん)を拡げる手術があるから、ステント(メッシュ状の金属筒)お願いね」

予定されている内容を聞くと、脳内でシミュレーションが始まります。

医師個人別データから、瞬時に先生の好き嫌いを含む情報を取り出します。次に複数のメーカー製品を比較して、新商品も含めたなかから、最適と思われるものを選び出して、提案をしていくのです。

(メーカーはA社とB社で決定。どうも患部の位置が微妙だから、開腹してみたら思わぬトラブルが見つかるかもしれない。先生はステント1種類だけでいいとおっしゃるが、念のため違うタイプも入れておこう)

「胆管なら、これがいいんじゃないですか」

ふさわしいと思われる製品名を次々とあげていき、同時に先生の発する言葉から手術が予想とは違う流れになる場合も想定して、万が一に備えた予備もリストに追加します。

頼まれたセット以外に言われていないものを用意するのも、私たちの役目です。

手術の準備は、上手くできて当たり前。

先生方が、普通に手術を滞りなく行える体制まで持っていけて、平均点といったところでしょうか。

トラブルが発生したときに「こういうものが使えますよ」と提案する、プラスαができて初めて、「ありがとう」と感謝をされるものなのです。

もし情報を読み間違えて手術に不都合が生じたら、次の仕事はありません。

想像力をフル稼働させて挑む打ち合わせは、毎回が真剣勝負です。

『お客様にとっての最適』

今はインターネットでも、その気になれば一部の医療機器なら購入できる時代です。

私たち業者が必ずしも介在しなくても、製品は手に入るようになりました。

 そんな時代に私たちが、お客さまへ提供できるものとは何だろう。

 いつも模索しながら、目の前のお客様と向き合っています。

私たちのサービスのひとつは、医療機器購入までにお客さまが感じられる、心理的な迷いや不安を取り除くお手伝いをすることだと考えています。いざというときの、身近な相談相手とでも言えばいいでしょうか。

 当たり前と言えばそれまでですが、メーカーさんは、自社製品を悪く言わないんです。

 先生方への営業活動では、製品のメリットしか述べません。

 私たちは仕事柄、たくさんのメーカーの商品を取り扱い、それぞれの長所・短所を理解しています。先生から「君はどう思う?」と意見を聞かれたときには、他社製品とも比較の上で、「機能の面では優れていますが、ランニングコストは高めになります」と、商品のメリット・デメリットを説明できるんです。一方に偏らずに公平なものさしで、ひとつの製品の良し悪しを計れるのが、業者の特権だと思っています。

 先生によっては、メーカー推奨品が自分たちの病院にとって良いものなのかどうかの判断に迷い、私たちの考えを参考に、購入する・しないを決められる場合もあります。

 ですから常に中立な立場から。お客さまにとっての最適な提案を行うように、心がけています。

 もうひとつは、お客さまに合った「最適」を提案する、アドバイザーの役割でしょうか。

 たとえば医療機器の中で特に大型機械の購入は、病院によって数年に1度、もしくは10年単位ごとで行われます。価格・性能・使い道・予算など、さまざまな基準に照らし合わせて何を買うかを検討されますが、名称が同じ製品でも、高い機種からそれなりのものまで、価格帯には幅があります。

 病院経営の観点から単純に金額面だけを考えると、安価な製品は一見、魅力的に見えます。

 時間の限られたなかで備品を選ぶとなると、細かい性能の違いが気にならなければ「安い方でいいんじゃないか」と値段が決め手となる場合もあります。

 もちろん、用途や性能に納得されていれば、手ごろな価格のものを求められて問題ありません。けれど予算に幅が取れる場合は、将来を視野に入れたうえでの購入をなさった方が、未来の収益増につながります。だから可能な限り、先を見越した提案をさせてもらうんです。

先日、ある病院で備品申請の時期を迎えたときに、価格帯の異なる2つの製品の中から1点を選ばなければならないケースがありました。

 私はあえて、高額な機種をおすすめしました。何通りの治療にも使えて、機械の導入自体が宣伝効果を呼び、患者さまを集める装置としても機能する——病院にとってたくさんの利点を備えていたからです。こちらを選択した場合に生じる効果を伝えられなければ、自分が存在する意味がないと感じていました。

 予算的に厳しかったこともあり、先生から「検討しますね」と、その場では言われただけでした。

 しかし蓋を開けてみたら、高性能な製品を入れてくださると決まっていたのです。

 私は思わず「どうして、高い方を選んでくださったんですか」と訳を尋ねました。

 すると先生は、「この先を考えて君が提案してくれた内容に納得をしたからだ」とおっしゃったんです。おすすめした方を選ばれた理由は、客観的な視点にもとづいた意見の正当性を、ご理解いただけたからだと思います。

 でもそれに加えて「病院にとってもプラスとなる、この製品の良さを伝えたい」という自分の熱意が、先生の心を動かしたからではないかと思っています。

 目先の収支を優先させず、将来的なお客さまと患者さまの利益を考えて製品を選ぶ。

 それは当事者ではない、業者である客観的な立場だからこそ、できること。

 本当に良いものを、迷わずにお客さまへ伝える。

 お客さまと製品、人とモノの間をつなぐ「橋渡し」を、私たちは行っています。

『先生と一緒に土地探しもしています』

「そうですか、開業希望ですか。土地はどの辺で検討中ですか? お調べしますね」

これから新規開業のお手伝いが始まります。

医療機器を扱う会社が土地探しをするの? と不思議に思われるかもしれませんね。

お客さまを全面的にサポートするのが、私たちの仕事です。

直接製品をお届けする業務だけではなく、 医療にまつわる全てが、私たちの守備範囲なのです。それにはお客さまの持たれている課題に、共に取り組むことも含まれています。

担当する病院の先生が、独立をされて新しくクリニックを開かれると決まったら、私たちの出番です。土地探しから建物の建築手配、機材の導入まで、責任を持ってお手伝いします。

ところで、病院を開業するときに一番重視すべきポイントは何だと思いますか。

それは、立地条件です。私たちは、病院建設候補地の一日の通行量や周辺人口分布の調査を、必ず事前に行っています。

ときどき「この土地に病院を作りたい」と先生みずから、場所を指定される場合があります。

ご希望には添いたいところですが、どこに建てるかで、病院経営のその後が変わってきます。

患者さまが来院される見込みが少ないと判断したときには、「先生、こちらはちょっと難しいですね」と、他の場所を案内する場合もありますね。

一方で、私たちの把握している地域ごとの診療科別病院のデータをもとに、病院を必要としている地域へ新規開業の先生を呼ぶ試みもさせてもらっています。

「近くに耳鼻科がなくて困る」など地域によって、どうしても病院の診療科のある・なしには偏りが出てきます。

開業場所について先生から特にご希望のない場合には、病院建設で住民の不便さが解消される地域を、優先的にご紹介するようにしています。

医師の不足しているエリアに病院が建つと、助かりますよね。地域貢献にもなりますし、安定した病院経営も見込めて、みんなが嬉しい結果につながると思うんです。

先生と患者さま、皆さまから喜ばれる開業のお手伝いを目指していますね。

 新しい土地で、先生と地域の患者さまたちとのお付き合いが末長く続いていくように、

私たちは将来を見据えた提案を行っています。

  さぁ、またひとつ、仕事が増えました。

(開業支援部署と連携して、まずは土地のリサーチだ)

私は先生と会話をしながら、早速次の段取りを考えていました。

『機転をきかせよう』

(今準備できるのは、一点だけ。別の病院に同じタイプの製品は置いてないから、代わりに他のものを使ってみてはどうだろう)

病院から入る「至急持ってきてほしい」の要請には、何度経験しても、常に緊張感がついてまわります。



けれど手元にある材料を組み合わせて、いかにお客さまのオーダーに応えられるか。自分のコーディネート能力を問われる絶好の機会でもあるのです。

僕たちの仕事には、例外が必ず入ってきます。今日は内勤中心にしようと予定を組んでいても、交通事故の手術など突発的な案件が入ると、そちらが最優先となります。

前もって病院から手術の予定を聞いている通常の場合は、準備に抜かりはないんですが、 緊急時には、そうはいきません。

お客さまから依頼を受けたら、即対応をしなければ間に合わない。

今日中に手に入らない製品に関しては、「申し訳ないけれど、ご用意できません」と伝えて、代わりで代用します。

お客さまの依頼によっては、揃えにくいアイテムが集中している場合もあります。そんなときは悩みますね。

でも僕たちが必要な製品を届けないと、手術は始まりません。 複数のメーカーを思い浮かべて、過去の手術でよく似た使い方をしたものを代用しよう、B社の在庫が近くの病院にあれば貸し出ししてもらおう、などと知恵を絞って打開策を考えます。

そのうちにパズルのピースをはめ込むように、「この組み合わせなら、いけるのでは」と閃めく瞬間がやってくるんです。

先生や看護師さんから、自分が考えてコーディネートした器具を使って手術が上手くいった、と後で話を聞くと「やった!」と難問を解決できた達成感を感じますね。

僕たちは、仕事柄毎日何かしらイレギュラーの対応に迫られます。ときには、しんどいと感じることもありますが、日々直面するさまざまな状況をどうクリアしようかと、チャレンジ精神を持って難問に挑んでいます。

『社員の閃きから生まれた手術用ナイフ』

「こんな○○があったらいいのに」 誰でもそう思うことがありますよね。

これは私が担当している、眼科の先生、メーカー営業社員さんと一緒に、今までにはなかったナイフを開発した話です。

私たちの業務には、医師から要請があった場合にスタッフと共に手術室に入る「立ち会い」があります。

その日も手術室では、白内障患者さんの手術が行われていました。いつものように手術は手際よく進み、先生は角膜の二カ所に切れ目を入れるために、慎重に一本のナイフを握り直していました。

白内障手術では、眼球の縦と横二カ所、長さに差のある切れ目を入れます。通常二種類の刃先の違うナイフを使いますが、私の担当する先生は、一本のナイフを巧みに扱い、角膜を切開することができるのです。

たとえ同じ病気であっても、手術へのアプローチは医師により少しずつ変わります。

既存のものを工夫して使っている先生を見ながら、独自の手法に合わせた特注ナイフがあれば、もっと手術がしやすくなる、と私は確信していました。

その頃、「既存ナイフの商品ラインナップは、どの会社も横並び。価格を安くして差別化するしかない現状を何とかしたい」と、メーカー営業社員さんから悩みを聞いていました。

二つの事柄が頭の中で結びつき、両方の「困った」を解決する方法が閃いたんです。

「先生のやり方に合わせたナイフを作ればいい」と。

特注ナイフを作れば、経験の浅い医師でも効率良く手術が行えるようになります。

それに加えて、医療機器の多くは消耗品でナイフも使い捨てのため、もし一回で使用する本数が一本で済めば、ゴミの量は半分に減るし、病院のコスト抑制にもつながります。

先生の手術が楽になるだけではなく、経済面、ゴミ削減の両方でもメリットが生まれると考えました。

新商品開発に行き詰るメーカーにとっても、他社との差別化につながる新製品が発売できる、 願ってもない話です。

私が両者の間を取り持ち、特注ナイフ製品化計画が始まりました。先生とメーカー営業社員さん、自分の三人で、何度もミーティングを重ねて、 試行錯誤を繰り返しました。

せっかく新しいものを世に出すのだから、より使いやすい仕様にしたい。

先生とメーカー営業社員さんは、小さな工夫を思いつきました。 誰でも正確に角膜に切れ目を入れられるように、ナイフの刃先に一・五ミリと二ミリの、線の目盛りを入れたのです。

たったそれだけ・・・・・・と感じるかもしれません。

でも目盛りのラインの入った既存品は、今まではなかったんです。

これまでは医師が目分量で眼球を切開していましたが、目盛りをつけたことで、誰でも最適な位置に合わせて角膜へ切れ目を入れられるようになりました。ほんの少しの違いが、大きな成果を生んだのです。

「一本で正確に角膜を切れるナイフ」の誕生は、メーカーによる各地での勉強会や、学会で手術DVDを紹介するなかで「こういう商品を待っていた!」と、全国の眼科医たちから歓迎されました。

先生の確立した手術方法と共に広がり、製品は全国の病院で採用されています。

日頃の営業活動を通して、私たちは、いろんな事柄を見聞きします。病院側とメーカー側のニーズを合わせると、そこから新しいものが生まれる場合もある。自分が関わる人たちの役に立ち、喜んでもらえる商品をプロデュースできたことを、私は嬉しく思っています。



予告 『挨拶から始まった』

    公開までもう少しです!