商品を届けるための長距離リレー

「おっ、来てくれている」会社名の書かれた社有車と、顔を知っているメーカー担当者さんの姿が見えます。ここは北陸自動車道と名神高速道路をつなぐ、米原ジャンクション。

私はお辞儀をしながら、製品を持って来てくれた彼へ近づいていきました。

「今日この器具を使いたいんだけれど、準備してくれるかい」担当する整形外科の先生から、予定外の依頼がありました。

手を骨折した患者さまのために用意してほしいと指定された器具は、体内に埋め込む特殊なスクリューでした。他の病院や、金沢市にある我が社の物流センターには、在庫を置いてないものばかりです。

私は、必要と言われた他の手術道具一式を頭のなかで思い浮かべ、

「急な連絡なので、全部を揃えるのは難しいです。でもできるだけご要望に応えたいと思いますが、それでもよろしいですか」

と先生の了解を取りつけて、電話を切りました。

現在の時間は午前10時。

どうしても手術には外せないスクリューは、大阪にあるメーカーさんの製品です。

直接協力を仰ぐしかないと決心した私は、担当者に連絡を取りました。

「○○(製品名)を使いたいのですが、手配をお願いできるでしょうか。期日は本日です」

「はっ、今日ですか!」

受話器から伝わる、担当者の声の調子が変わります。

(当日にいきなりお願いされても、そりゃびっくりするよな)と思いながら、私は交渉を始めました。

最初は驚いていたメーカー担当者さんも、同じ業界で仕事をする仲間です。

こちらの事情を汲んで、お互いの中間地点、高速道路の米原ジャンクションまで運んであげましょう、と協力を申し出てくれたのです。

段取りはつきました。あとは時間との闘いです。

 会社を出て、北陸自動車道を西へとひた走ります。

米原ジャンクションが、見えてきました。

馴染みのあるメーカー名の車を目がけて歩いていくと、先方が車のドアを開けるのが見えました。

お互いに挨拶もそこそこに、受け渡しがスタートします。

メーカー社員さんは私の手元に、素早く製品を渡してくれました。

何度も頭を下げながら、急いで車へ戻ります。時刻は14時を過ぎたところです。

 再び高速道路を飛ばして、今度は病院を目指します。

市内に入り、手術道具一式を持参したのが17時頃でした。

これで手術は、予定通りに行えます。

「準備が整いましたよ」と先生に一声かけて、私は病院の建物を後にしました。

「すぐ持ってきて」、「すぐに来てほしい」

私たちの仕事には「すぐ」がつきものです。

メーカーさんや社内の人間と連携して、お客さまの「どうしても」の依頼に応えることは、特別ではない日常業務のひとつです。

お届けする中身は違っても、「商品を届けるリレー」は、今日もどこかで行われています。