『想像力を駆使せよ』

相手の立場にたって考える能力を絶えず問われるのが、手術の打ち合わせです。

勘違いされることがあるのですが、「外科○○手術セット」のような、これを持っていけば全ての手術に対応できるというような製品一式は、存在しません。

手術で使うメス・はさみなどは、一回ごとに、私たちが揃えます。

一回の手術に合わせた一組のセットは、実は特別仕様なのです。

手術の基本方式は、病名を問わず、ある程度は決まっています。しかし、そこに執刀する医師の特徴が加わると、たとえ同じ病名の手術をする場合でも、やり方が変わり、使用する製品には違いが出てきます。

私たちは先生一人ひとりが、どんな性格をされていて、手術方法・器具の好みはどのようなものなのかを、営業社員各自で把握しています。この点の理解ができていないと、仕事にはならないでしょうね。

「今度、胆管(たんかん)を拡げる手術があるから、ステント(メッシュ状の金属筒)お願いね」

予定されている内容を聞くと、脳内でシミュレーションが始まります。

医師個人別データから、瞬時に先生の好き嫌いを含む情報を取り出します。次に複数のメーカー製品を比較して、新商品も含めたなかから、最適と思われるものを選び出して、提案をしていくのです。

(メーカーはA社とB社で決定。どうも患部の位置が微妙だから、開腹してみたら思わぬトラブルが見つかるかもしれない。先生はステント1種類だけでいいとおっしゃるが、念のため違うタイプも入れておこう)

「胆管なら、これがいいんじゃないですか」

ふさわしいと思われる製品名を次々とあげていき、同時に先生の発する言葉から手術が予想とは違う流れになる場合も想定して、万が一に備えた予備もリストに追加します。

頼まれたセット以外に言われていないものを用意するのも、私たちの役目です。

手術の準備は、上手くできて当たり前。

先生方が、普通に手術を滞りなく行える体制まで持っていけて、平均点といったところでしょうか。

トラブルが発生したときに「こういうものが使えますよ」と提案する、プラスαができて初めて、「ありがとう」と感謝をされるものなのです。

もし情報を読み間違えて手術に不都合が生じたら、次の仕事はありません。

想像力をフル稼働させて挑む打ち合わせは、毎回が真剣勝負です。