『社員の閃きから生まれた手術用ナイフ』

「こんな○○があったらいいのに」 誰でもそう思うことがありますよね。

これは私が担当している、眼科の先生、メーカー営業社員さんと一緒に、今までにはなかったナイフを開発した話です。

私たちの業務には、医師から要請があった場合にスタッフと共に手術室に入る「立ち会い」があります。

その日も手術室では、白内障患者さんの手術が行われていました。いつものように手術は手際よく進み、先生は角膜の二カ所に切れ目を入れるために、慎重に一本のナイフを握り直していました。

白内障手術では、眼球の縦と横二カ所、長さに差のある切れ目を入れます。通常二種類の刃先の違うナイフを使いますが、私の担当する先生は、一本のナイフを巧みに扱い、角膜を切開することができるのです。

たとえ同じ病気であっても、手術へのアプローチは医師により少しずつ変わります。

既存のものを工夫して使っている先生を見ながら、独自の手法に合わせた特注ナイフがあれば、もっと手術がしやすくなる、と私は確信していました。

その頃、「既存ナイフの商品ラインナップは、どの会社も横並び。価格を安くして差別化するしかない現状を何とかしたい」と、メーカー営業社員さんから悩みを聞いていました。

二つの事柄が頭の中で結びつき、両方の「困った」を解決する方法が閃いたんです。

「先生のやり方に合わせたナイフを作ればいい」と。

特注ナイフを作れば、経験の浅い医師でも効率良く手術が行えるようになります。

それに加えて、医療機器の多くは消耗品でナイフも使い捨てのため、もし一回で使用する本数が一本で済めば、ゴミの量は半分に減るし、病院のコスト抑制にもつながります。

先生の手術が楽になるだけではなく、経済面、ゴミ削減の両方でもメリットが生まれると考えました。

新商品開発に行き詰るメーカーにとっても、他社との差別化につながる新製品が発売できる、 願ってもない話です。

私が両者の間を取り持ち、特注ナイフ製品化計画が始まりました。先生とメーカー営業社員さん、自分の三人で、何度もミーティングを重ねて、 試行錯誤を繰り返しました。

せっかく新しいものを世に出すのだから、より使いやすい仕様にしたい。

先生とメーカー営業社員さんは、小さな工夫を思いつきました。 誰でも正確に角膜に切れ目を入れられるように、ナイフの刃先に一・五ミリと二ミリの、線の目盛りを入れたのです。

たったそれだけ・・・・・・と感じるかもしれません。

でも目盛りのラインの入った既存品は、今まではなかったんです。

これまでは医師が目分量で眼球を切開していましたが、目盛りをつけたことで、誰でも最適な位置に合わせて角膜へ切れ目を入れられるようになりました。ほんの少しの違いが、大きな成果を生んだのです。

「一本で正確に角膜を切れるナイフ」の誕生は、メーカーによる各地での勉強会や、学会で手術DVDを紹介するなかで「こういう商品を待っていた!」と、全国の眼科医たちから歓迎されました。

先生の確立した手術方法と共に広がり、製品は全国の病院で採用されています。

日頃の営業活動を通して、私たちは、いろんな事柄を見聞きします。病院側とメーカー側のニーズを合わせると、そこから新しいものが生まれる場合もある。自分が関わる人たちの役に立ち、喜んでもらえる商品をプロデュースできたことを、私は嬉しく思っています。